どらま!ドラマ!DRAMA! 2nd Season

~日本のドラマ・映画、俳優・女優やシナリオライター(脚本家)などを徹底解剖~

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『振り返れば奴がいる』の名台詞を振り返る/第八回 「新記録」(1993年3月3日)

      2015/10/24

前回、去年の3月に『振り返れば奴がいる』の記事を書いてから、何度か「フリヤツ」を見直し、この三谷幸喜さん脚本のドラマの名台詞を記録しておくべきだという義務感が湧いてきました。よって、ここに記すことにします。

その第八回です。

※一応、時間も表記しますが、CMを除いた大まかな経過時間です。
※なお、私が参考にしたのは再放送分なので、カットされた部分があると思われます。ご了承ください。

参考資料『月刊ドラマ』(映人社、1993年3月号) ※第一回~三回の掲載シナリオ

■第八回 「新記録」

司馬 江太郎(27)……織田裕二さん
石川 玄(27)……石黒賢さん
大槻 沢子(26)……千堂あきほさん
峰 春美(25)……松下由樹さん
中川 淳一(45)……鹿賀丈史さん
×   ×   ×   ×
星野 良子(27)……中村あずささん
稲村 寛(33)……佐藤B作さん
平賀 友一(35)……西村雅彦さん
前野 健次(26)……川上たけしさん
神尾 仁……大森博さん
中井 加世(22)……貴島サリオさん
製薬会社「オノクボ」・野田……花王おさむさん

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●1:09~
中川「近々、オペしましょうね。それまでは、ゆっくり養生してください」
石川「部長。そのことなんですが――」
中川「まさか仕事を続けたいなんて言うんじゃないでしょうね」
石川「僕は今は何ともありません。今日、明日中にどうこうということもないでしょう。いつまでやれるかは、自分で判断できます、ですから――、それまでは仕事を続けたいんです」
中川「……」
石川「……」
中川「自分の体を治す――、これも医者の仕事ですよ」
石川「……」
中川「無理、しないようにね」
石川「……はい」

※前回では司馬の腕でも手術したところで見込みはないという話でしたが、とりあえず中川は手術を勧めています。石川の手術については最後までどうするのが適切なのか理解しにくい面があります。

●7:29~
司馬「みなさん――、よろしく。体外肝(たいがいかん)切除の日本最短記録は12時間です。中川先生は14時間と踏んでらっしゃるようですが、やるからには記録を更新したい! 目標は10時間」
中川「言うねえ」
司馬「迅速にやれば出来ない時間ではない」
石川「すいません」
平賀「どうぞ」
石川「そういった記録は狙って作るものじゃない。後から付いてくるものだと思います」
司馬「記録は狙わなければ破れない」
石川「時間を気にすればオペは雑になる」
司馬「そんな医者はここにはいない」
石川「オペはスポーツではない。時間を競い合うものではないと思います」
司馬「オペはね、速ければ速いほどいいんだよ」
石川「そういう考えの執刀医は認めることはできない」
司馬「じゃあ辞めろ」
石川「……」
司馬「だいたい君はこんな所にいていいのか」
石川「どういうことだ?」
司馬「君は寝てるべき人間じゃないのか。他人(ひと)の体を云々する前に、自分の体のことを考えろ」
石川「僕はドクターとして冷静に自分自身を診断してます。まだ充分に現場に復帰できる」
司馬「いいか? いつ血を吐くか分からない人間が、オペ室にいたんじゃ、みんなが迷惑するんだよ!」
中川「司馬先生、これは私の判断です」

※石川の「時間を気にすればオペは雑になる」は石川の最も印象的なセリフの一つですよね。「●●を気にすれば●●は雑になる」はいろんな場面で幅広く活用できそうです。これに対して司馬は「そんな医者はここにはいない」と。けっこう周りの人間を評価していたんですねえ。いや、これも記録を狙うための、人心掌握術にすぎないのでしょうか。

●14:39~
司馬「今のところは最短記録だ。ペースを崩すなっ」
平賀「分かりました」

※「崩すなっ」の言い方がたまらなくいいんですよね。そして平賀は、今や司馬に対してほぼ丁寧語になってきていて、少し哀れです。

●16:10~
司馬「ヴァウンティ社というのは、あのNRDを開発した?」
星野「は?」
司馬「NRD。中性子放射線照射装置だ」
星野「ああ……。はい、そうですが。……あの、何か?」
司馬「……入れられるか? NRD……、入れられるか?」
星野「あの……、うちは、そのペースメーカーだけ、権利を持っていて……」
司馬「入れろ。何が何でも入れろ」
星野「司馬先生……」
司馬「NRDを入れられるんであれば、他の器具も全てオットーにしてもいい。――何としてでも入れろ!」
星野「……分かりました。必ず……」

※このシーンはけっこう疑問が残るんですよね。感動的なシーンに流れるのが常の「歩くたびに透きとおる風」がBGMに使われているので、普通に考えれば石川のためにNRDを導入しようとしているのではないか、と。しかし第十回で司馬が語っているように、NRDが導入される頃には石川は絶命している可能性が高い、と。一番あり得るのは、三谷さんやスタッフの中でちゃんと設定が出来ていなかったということではないでしょうか? なお、NRDは架空の製品のようです。

●18:18~
司馬「野田さん、でしたっけ?」
野田「はい」
司馬「僕はね、義理で仕事はしたくない」
野田「……はい」
司馬「より性能の良いものを選びたい。――例えば、鑷子(せっし)1本にしてもです」
野田「性能はいいです! うちの鑷子はつまみの部分が実にうまく……」
司馬「野田さん……」
野田「はい」
司馬「鑷子は例えです」
野田「少なくともね……、オットーさんと比べても遜色はないはずです」
司馬「でしたら、誠意を、見せていただけませんか? 性能が同じなら、私たちは何で判断したらいいんでしょうか?」
野田「……」
司馬「……誠意です」
野田「あの……、これ良かったらみなさんで……(とメモ帳などの粗品を出す)」
司馬「野田さん……」
野田「はい」
司馬「どうも、我々は住む世界が違うようですね」
野田「司馬主任……!」
司馬「お引き取りください」

※鑷子(せっし)とはピンセットのことです。
さて、この1993年時点に「誠意」が出て来ると、どうしても前年のスペシャルドラマ『北の国から’92 巣立ち』を連想せずにはいられません。すなわち、菅原文太さんの有名なセリフ、「誠意って何かね?」です。
文太さんは、「あんたにとってはこうやってることが精一杯の誠意かもしれんが、こっちの側からは誠意にとれん。……誠意って何かね……? え? あんたにとっては遠くから飛んで来て、恥を忍んで頭を下げてる。それで気持ちが済むかもしれんがね。もしも実際あんたの娘さんが、現実にそういう立場に置かれたら……。もういい……、分かった。これ以上話しても始まらん。……おい、客が帰るぞ。……ああ、そのカボチャ、持って帰ってくれ」と、誠意が何か明確には語らず、五郎(田中邦衛さん)が富良野から持参したカボチャも受け取りません。それに対してフリヤツの司馬は、後に石川が野田に語るように、誠意が何なのか、明瞭ですね。これは三谷さんなりの倉本聰さんに対する回答だったのでは?

●20:51~
司馬「大丈夫なんですか、物もらいは」
中川「意地が悪いね、君も」
司馬「何か?」
中川「……オノクボの野田さんに会いました。泣きつかれてねえ。医療器具、オットーで一括するんだって?」
司馬「……いけませんか?」
中川「ちょっと、あからさますぎるねえ。これはね、オノクボの野田さんに頼まれたから言ってるんじゃないですよ。――君とオットーがつるんでる……、そういう噂が立ってね……」
司馬「部長――。お言葉ですが、この件に関しては僕は一任されているはずですが」
中川「暴走はしないようにね……、くれぐれも」
司馬「……交換条件だったんです。NRDを、1台取り寄せてもらいました」
中川「NRD?」
司馬「はい」
中川「……これは、忠告です。委員会が君の参加を認めたのは、現場の意見を反映させるためでね……、独断はまずいよ。少なくとも、事前に承諾を得てね……」
司馬「――部長」
中川「はい?」
司馬「……僕に指図をするのは、もうやめていただけませんか?」
中川「ええ?」
司馬「立場をわきまえてください。物もらいが通用するのも、今回だけですよ」
中川「……」
司馬「外科医は、メスが持てなくなったら終わりです」
中川「……」
司馬「お辞めになるんですか? ……あなたには無理だ。隠し続けるしかない」
中川「……その話は、やめましょう」
司馬「僕が、守ってあげます」
中川「……」
司馬「僕はこれからも、あなたをずっと守ります。今以上に。だからあなたは余計なことは言わない。今の地位を、離れたくなければ、じっとしていることです。僕が全てやりますから」
中川「フフフフ……、図に乗るなよ」
司馬「……何か?」
中川「……」
司馬「(顔を近づけて)今、何て……? もう一度……」
中川「……何でもありません」
司馬「下がっていいですか?」
中川「どうぞ」
司馬「……失礼します(と行きかけて戻り、中川の前に札束を置く)」
中川「……何だ」
司馬「忘れてました。オットーさんから、あなたへのプレゼントだそうです」

※これは司馬と石川の対決シーンではないですが、このドラマの中の最高の対決シーンに挙げる人が多いのではないでしょうか。司馬と中川の対決でありつつも、役者としての織田裕二さんと鹿賀丈史さんの対決でもあります。特に織田さんの方は難易度がかなり高いですね。とりわけ、中川を押さえ込んで完全に立場を逆転させて部屋を出るかと思いきや、戻って、お金を渡してフォローするシーンはスゴ過ぎです。
ところで、「僕が全てやりますから」のセリフには、2年前の1991年の連続ドラマ『101回目のプロボーズ』(脚本:野島伸司)の伝説のシーン、武田鉄矢さんがトラックの前に飛び出して叫んだ、「僕は死にません! 僕は死にません! あなたが好きだから、僕は死にません!」の後の「僕が、幸せにしますから!」を想起させられるのですが、私だけでしょうか。

●30:58~
平賀「絶対金(かね)もらってるよ(とつぶやきながらトイレに入って、小便を始める)」
司馬「(入って来て)よう――。オペはどう?」
平賀「順調ですよ。……ちょっと、真後ろ立たないでもらえますかあ?」
司馬「これねえ、オットーさんから君へ、プレゼントだって」
平賀「え? おい、ちょっと、何入れたんだよ、やめてくれよ」
司馬、大便器の方へ行く。
司馬「手でも拭いてやれ(とトイレットペーパーで鼻をかむ)」
平賀「何? ハンカチ? ねえ、ハンカチ入れたの?」
司馬「……忘れてたけど、この前はどうも」
平賀「なあに?」
司馬、
トイレットペーパーを流し、再び平賀の後ろへ立つ。
司馬「――突き飛ばしてくれて」
平賀の長い小便が止まる。
平賀「……!」
司馬「痛かったよ~~」
司馬、平賀の腰の辺りを押して、去る。

※このシーンも司馬と平賀の間の屈指の名シーン、そして役者としての織田裕二さんと西村雅彦さんの屈指の名シーンに挙げられるでしょう。トイレという舞台を最大限に使っての珠玉のやり取りの数々です。トイレットペーパーで鼻をかむのと平賀の小便が止まるのは三谷さんのアイデアではないような気がしますが、どうなのでしょうか。とにもかくにも「痛かったよ~~」の言い方が最高です。

●34:33~
司馬「早く来い――。石川のグズがいくらちんたらやったってそろそろ片付く頃だ。急がないとクランケが保(も)たない」
峰「クランケのためですか? ……自分のためじゃないんですか?」
司馬「……同じことだ」

※ドクターはクランケのためにあるべきだと思いますが、8話も司馬の生き様を見た後で「同じことだ」と聞かされると、共感できてしまう自分がいます。そしてここでも「ちんたら」というユニークなワードが出て来ましたね。

●36:27~
中川「どんな具合ですか?」
平賀「山場ですよ」
前野「新記録、いくかもしれませんよ」
神尾「素早いですね。司馬先生、やっぱり」
中川「素早いが、決して雑じゃない。――天才だねえ、彼は」
平賀「ええ……」

※中川の「「素早いが、決して雑じゃない」には、もちろん医療技術以外の司馬の側面への含みがありますね。それを平賀に言っているのは、司馬に抱き込まれた者同士だということを暗示していますよね。

●37:52~
石川「残念ですが、おそらくその誠意は司馬先生には伝わらないと思います」
野田「やっぱり……、金ですか……。そういうもんじゃないと信じてやってきたんですよねえ……」
石川「中川先生と話してきます」
野田「は?」
石川「正しい人間がバカを見るようじゃおしまいだ。待っててください」

※これが誠意の「答え」です。

●38:55~
石川「部長、お願いですから、もうこれ以上司馬の肩を持つのはやめてください」
中川「……」
石川「糾弾してください。彼がいる限り、この病院は良くならない。腐敗していくだけです」
中川「それは……、出来ません」
石川「部長……」
中川「無理な相談です……。そりゃ出来ません」
石川「なぜですか……」
中川「……」
石川「あなたを軽蔑します」

※司馬にほとんど屈してしまった後では、台詞もですが、偽りの眼帯が痛々しい中川部長なのでした。

●41:51~
司馬「終了――。何時だ?」
峰「22時50分です」
司馬「諸君――、新記録達成だ」
加世たち「おめでとうございます!(
と拍手)」

※実は司馬は、この少し前に手術しながら掛け時計を自分で確認しているのです。つまり、人に聞かなくても把握できたのに、わざわざ峰に発表させているのです。さすがの司馬も新記録達成に少し興奮して、みんなと喜びを分かち合いたいと思ったのではないでしょうか。

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